ストレンジャー・シングス、ウェンズデーに続いて、日本や韓国以外の有名作品も少しずつ観るようになりました。今回は『アドレセンス』です。全4話、各話約1時間と一気に観られる長さです。作品が話題になっていることは知っていましたが、未視聴でした。「このドラマがすごい」という話題はよく耳にしていたものの、何がすごいのかは詳しく知りませんでした。しかし、全話を一気に観終えた後には、本当にあった出来事のように心にずっしりと響き、観てよかったと思いました。少年犯罪を扱う重い内容の物語ではありますが、これを観ることでネット社会や家族の在り方といったテーマについて、改めて考え直す機会になるドラマだと感じます。今回は、その感想をお伝えします。
予告編
ワンカットによる撮影
何がすごいのかというと、後から調べていて、各話「ワンカット」で撮影されたと知りとても驚きました。観ている時に、なぜか今までに体験したことないような緊張感があったのはそのせいだったのだと確信しています。事前に情報を知っていたかどうかに関わらず、違う感覚で観られると思います。私は特に何も知らずに観ていたので、例えば第1話では逮捕される瞬間から取り調べまでを丹念に追い、現場にいるような緊迫感を味わいました。第2話では、警察が逃げる生徒を随分ずっと追いかけているなあ(笑)と感じたら、実はそういう構成だったのですね。後からもう一度見返すと、カメラの動きや俳優さんのセリフ・演技が本当に見事で、改めて撮影の凄さを実感しました。
登場人物:キャスト
【ミラー家】
ジェイミー:オーウェン・クーパー
ジェイミーの父エディ:スティーヴン・グレアム
ジェイミーの母マンダ:クリスティン・トレマルコ
ジェイミーの姉リサ:アメリ―・ピース
【警察】
ルーク・バスコム:アシュリー・ウォルターズ
ミーシャ・フランク:フェイ・マーセイ
【その他】
臨床心理士ブリオニー・アリストン:エリン・ドハティ
ルーク・バスコムの息子アダム:アマリ・バッカス
あらすじ・感想
SNSでの誹謗中傷、思春期の少年の心情、加害者家族の在り方・・・本作はそんなテーマに深く切り込んでいます。各話のちょっとしたあらすじと私の感想をお伝えします。
第1話:ある朝、ミラー家に警察が突入し、13歳のジェイミーが少女殺人の容疑で逮捕されます。取り調べではジェイミーは自分は犯人ではないと主張しますが、決定的な証拠映像が存在します。
ジェイミー自身は弱々しく見え、否定が非常に強いことからも、何か裏があって無実を訴えているのではないかと推測していました。少年が逮捕され、取り調べへと進む過程を丁寧に描写しており、見ているこちらも疲弊するような緊張感が伝わってきます。父親が「絶対にやっていない」と信じ、横から見守る姿も印象的でした。
最初の突入シーンから、最後の証拠映像シーンに至るまで、視聴者としては「絶対にやっていない」と信じる家族側の視点に立ってしまい、何がなんだかわからないまま取り調べが続く緊迫感を強く感じました。
第2話:バスコムとフランクは、ジェイミーと被害者が通う学校で事件の聞き込み調査を進めますが、手掛かりは見つかりません。調査を進める中で、バスコムは息子アダムの証言を通じて、ジェイミーがSNS上での誹謗中傷を受けていた事実が浮上します。
SNSの絵文字にも意味があり、聞き込みの重要性を改めて痛感するとともに、大人には理解しきれない子どもたちの世界の恐ろしさを感じました。私自身は中学生時代にSNSが普及していなかったため、もし同時代に生きていたら、SNSの世界に踏み込むのが少し怖くなるだろうと想像します。さらに、フランクが指摘していた「犯人ばかりに注目が集まるのは嫌だ」という主張にも強く共感しました。実際、被害者の家族が最もつらい立場にあるにもかかわらず、生徒たちは加害者の情報を知りたがったり、ニヤニヤとした様子を見せる場面もあり、被害者のことよりも加害者へ関心が向く現状は、非常に悔しいと感じられます。
第3話:7か月後、臨床心理士ブリオニーがジェイミーと何度目かの対面シーンが描かれます。ジェイミーは質問に答える過程で徐々に事件についても話し出しました。
第3話は、ほぼ二人の面談シーンで最も緊張感のある回でした。面談後には、こちらまで思わず深呼吸してしまうほどでした。ここで驚いたのは、面談の途中でジェイミーが初登場時と別人かと思うほど変貌したことです。にこやかに話したり、急に怒ったりと、ジェイミーがどのような人物か、心の内が見えません。彼の心理状態、つまり一体どんな人間なのかが理解できませんでした。
第1話での弱そうな印象から、彼自身が犯行を実行したことを信じられませんでした。しかし、3話では姿勢が変わり、徐々に被害者のことについても話し始め、SNSの誹謗中傷に加え、女性に対する歪んだ価値観が殺人の動機につながったのではないかと感じられるようになってきました。ブリオニーに向かって怒りをぶつけるシーンには、恐怖を感じました。
第4話:13か月後のミラー家の様子が描かれ、エディの誕生日や誹謗中傷を受ける場面も描かれます。そんな中、ジェイミーも家族にある決断を電話で伝えます。
4話の中で、私が特に印象に残ったのは、終盤のエディがこれまでの思いをあふれさせ、悔しさと葛藤を露わにする場面です。とてもつらく、悲しい場面でした。「自分の力不足だ」というセリフから、息子をいかに大切に思っているかが伝わってきました。さらに、これが最大の救いとも言える場面として、ジェイミーの姉が放つ「ジェイミーは私たちの家族」というセリフが挙げられます。姉は優しく、それでも自分自身もつらいはずなのに、両親を心配し、彼らをなだめようとする強さを見せます。私なら同じようには思えないかもしれませんが、そんな姉の姿には心を打たれました。
「子どもが何をしているかなんて、親には分からない」「親のせいではない」という言葉にも強く共感します。思春期には、親に言っていないことがたくさんあるのが当然だと思います。私は独身なので、親の視点を直接理解しているわけではありませんが、この作品を通して、親の立場から見ると別の視点が浮かぶのだろうと強く感じました。
終わりに
とても重い内容で、ワンカット撮影による臨場感が作品全体を支配しており、まるでその場にいるかのように感じられました。自身に考えさせるような場面が多く、人それぞれにさまざまな解釈が生まれるはずです。
SNSの誹謗中傷は日本にも存在し、それによって自殺にまで追い込まれてしまう人がいることも知っています。誹謗中傷は、他者を傷つけたり、攻撃を招いたりと、さまざまな結果を生み出す恐ろしい現象です。また、SNSだけでなく、親が知らない場所でネットにアクセスできてしまう現代の世界は、さまざまな情報や思想を植え付け、危険が潜んでいると感じさせられました。もしネットがない世界だったら、状況はどう違っていたのだろうかと考えさせられます。
「アドレセンス」とは思春期を意味する言葉です。思春期は心も体も大きく変化するデリケートな時期で、私自身もその時期を経験してきました。しかし、現代のネット社会の介入により、さまざまな情報や思想が氾濫し、若者の心にこれまで以上の複雑さを生み出す可能性が高まっているように思います。